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活動報告


REPORT
連続講座 スライドで楽しむ物語の世界


第2回 『思い出のマーニー』(ジョーン・ロビンソン著・岩波書店)

◎「読書会」報告  (2012年6月14日)

第2回はイギリスの物語『思い出のマーニー』です。この物語は主人公の少女アンナが養母のミセス・プレストンに見送られて、たった一人でロンドンから列車に乗り、ノーフォークの海辺の町、リトル・オーバートンへ向かうところから始まります。
 アンナには喘息の発作があり、また周りの大人たちに「なんにも考えずにいる」とか「やってみようともしない」と心配され、ミセス・プレストンの古い友人夫妻のところへ送られたのでした。
 「無表情な顔つき」をすることで自分を守っていたアンナを迎えてくれたのは、素朴で温かいペグおばさんとペグおじさん。そして広い広い空と海、しめっ地が広がるリトル・オーバートンの自然でした。アンナはそこで入り江に面して建っている、ふしぎな感じにつつまれたやしきをみつけます。そしてそのやしきに住む、マーニーというふしぎな少女と友だちになるのです。
 アンナが感情を表現し始め、出会った人たちといかに心を通わすようになるか。「しめっ地やしき」「マーニー」の謎は? −その後出会うリンゼイ家の子どもたち、人々との交流の中でふしぎなめぐり合わせと驚くべきことが明らかになります。
 読書会では、22名の出席がありました。特に「マーニー」という存在をどうとらえたか、様々な意見がでました。感想を紹介します。

・アンナとマーニーの出会いは、お互いの魂が呼び合ったものではないだろうか。
・三代に渡る心の成長の記録に思えた。
・内面に触れられたくない気持ちは誰にでもある。ノーフォークの自然が、アンナの心の扉を最初に開けてくれた。また、「お母さん、おばあさんのこと、きらい、ゆるせない」と
あふれる感情をことばに出しはじめた場面が印象的。心の傷をみとめ、アンナが変わっていくところである。
・マーニーが実在であるかどうか、わからない。構造が苦手な物語である。
・海側と表側と全く違う様子をした「しめっ地やしき」が魅力的である。
・ジーパンの子どもたちは何者か?とか謎があって、最後にぱたぱたとわかるところがおもしろく作られている。最終場面までぐいぐいとひきこまれた。
・SFのような味わいがあった。
(大浦)
        

※水辺のシーラベンダーです。
                        
  

  



第2回 『思い出のマーニー』(ジョーン・ロビンソン著・岩波書店)

◎「スライドの会」報告 (2012年7月19日)

 ◎「スライドの会」報告 (2012年7月19日)
 第1回にひき続き、池田正孝先生をお迎えして『思い出のマーニー』のスライドの会が開かれました。
物語の舞台、イギリスの東部のノーフォークは水郷地帯です。地図を見ると、入り江(クリーク)が毛細血管のようにしめっ地に入り組んでいます。地盤も低く、中世よりオランダ人の技術によって干拓事業が行われてきました。干拓された土地は緑地となって、土手でしめっ地と隔てられています。一方、しめっ地は、100種類もの水鳥のすみかとして守られています。
まず、スライドでリトル・オーバートンのモデルの町、バーナム・オーバリィ・ステイスの町を探索しました。ペグさん夫妻が住んでいたような二階建ての家、けんか相手のサンドラの家のような、「丸い灰色の石をたくさん使っている」壁の家々、そして物語に出てくる郵便局もありました。次にマーニーが怖がっていた風車へ。風車は堂々とそびえ立っています。ナショナルトラストが管理していて、残念ながら中に入ることはできません。
そしてついに「しめっ地やしき」の表側に来ました。このモデルの建物は元はホテルで、今は縦に仕切られてアパートになっており、想像以上に大きな建物でした。気になるのは裏側、入り江に面した側です。アンナはそのやしきを見たとき、「ちょうどまむかいまで、浅い水の中をぽちゃぽちゃと歩いて行った」のですが、池田先生は裸足になって泥の中を歩いて近づくも、川のようになっているクリークがじゃましてそばまで行けません。漁師のおじさんに頼んでボートに乗り、やっとそばまで行くことができました。やしきの裏側には芝生が生えた庭があり、そこから入り江に下る船つき場の階段が確かにありました。ここで、アンナとマーニーは出会ったのでしたね。現在のアパートには、ヘンリーさんという児童文学者が住んでいて、親切にも「やしき」の中を見せてくれました。
この物語の中で、絶えず潮は引いたり満ちたりしていますが、池田先生はこの表情の変わる風景を、満潮時と干潮時に撮影されました。干潮では、塩水に強い草地がしめっ地に広がり、所々に薄紫のシーラベンダーの群生も見られます。低い所ではクリークが川のように残って、泥地にはボートが点在している不思議な風景です。それが満潮になると、「潮はしめっ地の大部分をひたしながら満ちて来て」すっかりしめっ地を隠して、海と一体となるのです。
池田先生は、滞在したキングズ・リンの民宿で、作者のロビンソン夫人がその10年前に亡くなっていたことを聞きました。ロビンソン夫人は二人の娘さんを連れて海岸に遊びに行っていたそうです。娘さんのうち、一人はアンナのように特異な性格の養女でした。
ロビンソン夫人自身が養女を育てた体験を持っていたからこそ、ミセス・プレストンとアンナの心の行き違いと通い合いが、現実味をもって描かれていると、納得がいきました。
物語に描かれている以上に、スライドの中のバーナム・オ