REPORT
連続講座 スライドで楽しむ物語の世界

  

  

 2014年 第2回 『時の旅人』
         アリソン・アトリー作/小野昭訳/評論社
                    松野正子/岩波少年文庫
                    

「読書会」報告 
(2015年1月21日)
第2回読書会は、19名の参加で、行われました。
 『時の旅人』は、イングランドの田舎を舞台にしたタイムファンタジーで、16世紀と現代とを行き来する少女ペネロピ―の日々がとても色鮮やかに描かれています。エリザベス1世によるスコットランド女王メアリー・スチュワートの幽閉、そして自らの命を賭して、メアリー女王の救出に奔走する若き領主バビントン。イギリスの王位継承権をめぐる歴史的重大事件を背景に、物語は丹念に過去と現代の素朴な生活を紡ぎながら、それぞれの想いを生き生きと描き出していきます。なかでも、歴史の悲劇的結末を知りつつ、なす術もなく、それぞれの運命の傍らで見守るしかないペネロピ―のもどかしさは、読んでいる私達にも切々と伝わってきます。そんなペネロピ―の悲しみに、ハーブの香りに満ちたダービシャーの自然は、優しくそっと寄り添っていきます。普遍的な営みに宿る力は、永遠の命を得て,そこに生きる人々を癒し続けているかのようです。
 この本は二人の訳者で出版されていますが、参加者の中で小野章/訳 評論社(1980年)で読んだ方は7名、松野正子/訳 岩波少年文庫(2000年)で読んだ方は12名いらっしゃいました。比べ読みをした方も数人いらっしゃいましたが、主観の違いからはっきりと好みが分かれたことも興味深いことでした。

☆それでは、参加者の感想を紹介いたします。

*グリーン・スリーブスの流れる最後の場面が印象的だった。
*メアリー女王とエリザベス1世との関係性が、この本を読んで少しわかったし、史実に興味を持つきっかけにもなった作品。また、若き領主の心を捉えるメアリー女王のカリスマ性が感じられた。
*古き良きイギリスの気配が、深く染み込んでいる作品だ。
*自分自身も、「時の旅人」をしているのではと感じた。(例えばお盆など)
*ハーブの香りなど、五感に訴えかけてくる自然描写に心惹かれた。
*イギリスは、歴史、場所、先祖などをとても大切にしている。また、私達も大きな時の流れの中に組み込まれているのだと感じた。
*過去と現在の行き来が段差がなく自然で、タイムファンタジー物の中でも、読みやすいと感じた。
*何年たっても変わらないイギリスがうらやましく思った。もしかしたら自分も夢の中で何かしているんだろうか…とそんな思いを楽しんだ。
*今と昔が、空気が入れ替わるように変わっていく、そんな世界観が楽しかった。自分自身もスムーズに過去と現在を行き来することができた。

                            
(渕野結美子)



 ★アトリーの生家               ★サッカーズ農場モデル






 2014年 第2回 『時の旅人』
         アリソン・アトリー作/小野昭訳/評論社
                    松野正子/岩波少年文庫
                    

「読書会」報告 
(2015年1月29日)

池田先生のスライドの会は、物語の根幹をなすメアリー女王の数奇な生涯の解説から始まりました。
陽気で、率直で人々から愛されたメアリー女王が、何故18年間も幽閉されねばならなかったのか。エリザベス女王と比較し、年表を見ながらの池田先生の熱情溢れる解説は、物語の世界を大きくふくらませてくれました。
作者アリソン・アトリーが18歳まで過ごしたダービシャーにあるクロムフォード村の風景は、絵葉書を見るようでした。高く低く丘陵が連なる美しい緑のクロフォード村、ダーヴェント川に沿った通学路、怖ろしかったと後日述懐したという山道、生家であったキャッスルトップファームには今も緑の蔦が外壁を覆い、白いバラが咲き、物語の世界を彷彿とさせます。主人公ペネロピーがスカートを翻して現れるような錯覚を覚えました。
そこから4,5キロメートル先に望めるバビントン邸の跡地には、礼拝堂がしっかりと残っていて鐘の音が響いてくるようでした。
メアリー女王が脱出を試みたというウィングフィールドマーナーハウス、洞穴の跡、チャトレーハウス。メアリー女王の最後の幽閉地、ファザリンゲイ城址など、今もって500年前の物語の舞台が息づいていることに驚かされました。
「事実に基づいているのでイギリスの児童文学は生き生きしているのです」と、話された池田先生のことばは大いに納得致しました。(徳江紀子)




★ペネロピ―の部屋               ★秘密のトンネル跡






★メアリー女王が幽閉されていた城跡       ★メアリー女王墓



  

   

         
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