REPORT
連続講座 スライドで楽しむ物語の世界

  

第3回 『りんご畑のマーティン・ピピン』
(エリナー・ファージョン著・岩波書店)

「読書会」報告 
(2012年9月20日)

   

    


 第3回『りんご畑のマーティン・ピピン』読書会は、21名の参加者がありました。旅の歌い手マーティン・ピピンが、泣きながら種を蒔く若い男ロビン・ルーの恋い焦がれる娘ジリアンを、閉じ込められた井戸から救い出す物語!と、書けば、冒険物語?違います。井戸屋形は6こ鍵がかけられていて、その鍵を持っているのは、男嫌いでにいかないと誓った6人の娘たちなのです。ジリアンの恋煩いをすためと称して、誰も聞いたことのない恋物語をピピンが6話聞かせます。(娘一人に一話ずつ)この6つの恋物語がバラエティーに富んでいて飽きさせません。

 ☆参加者の感想を紹介いたします。

 

*物語の中の恋物語が、囚われのジリアンにも娘たちにも読者にも語られており、全体が劇場の中で観ているようだった。語られるエピソードも良く練られていて、読み手は気を抜いていられない。

*マーティン・ピピンという人物がとても不思議!住所不定・職業不詳?吟遊詩人?最後ジリアンと行く所が夢の国のようで不思議。

*大好きで30年前から愛読者だが、今になったら水車小屋もまあまあ好きかな。劇中劇のようになっていて、天才だと思う。

*日本じゃ見当たらない作品。全体から香る香りが、比喩しかも暗喩だらけでまさにその当時のイギリスどっぷり。現実と夢の世界の境がよく分からない巧さが凄い。

*現実離れした乳搾り娘たちのやりとりの生活に入っていけない。

*読み進められないかたは、中の恋物語だけでも読んでみることをお勧めします。又は、時間をおいて手に取ってみるのも良いかも。

*何十年前に初めて読んだ時は、枠は分からず恋物語は美しく・ロマンチックだなという印象だった。読み返したら響く言葉が沢山あり驚いた。恋愛聖書か!時期あり、選ぶものかも・・・

(江口)




第3回 『りんご畑のマーティン・ピピン』
(エリナー・ファージョン著・岩波書店)


◎「スライドの会」報告 (2012年10月18日)

 ◎「スライドの会」報告 (2012年10月18日)
 池田正孝先生をお迎えしてのスライドの会、今年度最後の3回目は、『リンゴ畑のマーティン・ピピン』の世界を巡る旅でした。
このファージョン作品の舞台となった場所への旅が、先生の、イギリスでの児童文学にまつわる旅の始まりだったとのこと。そして、それは、「マーティン・ピピン」の訳者である石井桃子氏の影響を受けてのことだったそうです。
雑誌『図書』に連載された「イギリス初夏の旅」をもとに、「マーティン・ピピン」の舞台・サセックス州を巡ったのをきっかけに、他の作品世界も次々に旅して回ることになったということでした。スライドの会では、作品に関する資料もいろいろご準備くださる先生ですが、今回の参考文献の一つ、石井氏の『児童文学の旅』(岩波書店1981年)には、確かに、池田先生がたくさんの作品舞台のお写真を送ってくださったとの記述があり、その一部の写真が、本文を補助する貴重な資料として掲載されているのでした。
『リンゴ畑のマーティン・ピピン』は、イングランド南部のサセックス州、そこに連なるなだらかな丘陵サウスダウンズの自然を大きな舞台として描かれています。しかも、物語世界を彩り物語に溶け込んでいる作中の様々な名前のほとんどが、土地の名前や農場の名前として実在しているというのです。先生のお話とスライドからは、その驚きと喜びが、生き生きと伝わってきました。
石井氏の旅をベースに始まった先生の旅は、石井氏が巡った範囲を越えて、さらに新たな出合いや発見がいろいろあったとのこと。それも、言葉で
は一言でも、交通機関も不十分な大自然の中を、地図を頼りにご自分の足
で一歩一歩根気強く歩まれたからこその収穫であったこと、そして、それらは作品世界を深く体感する楽しさに満ちた道中であったことが、見ている私たちにも臨場感を持って伝わってくるのでした。
先生の旅のユーモラスな味わいは、現地でのやりとりの随所に現れていて、何とか中を見せてもらおう、写真を撮らせてもらおうとする先生の、実際に住んでいる方との駆け引きの件には、思わず会場も笑いに包まれます。
『リンゴ畑のマーティン・ピピン』には6つの作中物語が登場しますが、その中の「王様の納屋」に出てくる〈ワシントン村〉や〈チャンクトンベリーのリング〉、「オープンウィキンズ」に出てくる〈アルフリストン〉の町を始め、物語の舞台が次々に映し出されるスライドを見ている私たちも、「マーティン・ピピン」の世界をさらに極めたくなってくるのです。
また、先生がお話くださった、石井氏の訳の素晴らしさ(例えば、「High and over」の訳が「ハルカナムコウ」であるというように)にも、気付かされ、現地の地図や原書と見比べながら、その訳を確かめてみるのも面白そうなどと、新たな物語の楽しみが広がるのでした。
物語を、2倍と言わず、何倍にも膨らませてくださった、池田先生のスライドの会でした。
(箭内)

※写真はどちらも、チャンクトンベリーリングです。

                              

  
  

   

         
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