2017年 第2回 『魔女とふたりのケイト』
キャサリン・M・ブリッグス/作 石井美樹子訳/岩波書店
「読書会」報告 (2017年9月11日)
5月15日(月)、昨年の読書会でとりあげた「妖精ディックのたたかい」に引き続き、キャサリン・M・ブリッグスの作品「魔女とふたりのケイト」の読書会がおこなわれました。ブリッグスが描き出す妖精の世界は、1600年代のインぐランド・スコットランドの歴史的背景がしっかりと作品全体を下支えしているので、歴史小説としての面白さも加わり、ファンタジーの枠に収まり切れない堅牢で力強い作品となっています。人間が魔女や妖精と共生していた古き良き時代ならではの土臭さもページの端々に感じられ、その世界観に感心する人あり、とまどう人ありで、みなさんの感想も広がりのあるものになりました。今回の読書会の参加人数は15名でした。
【皆さんの感想】
❀「くるみ割りのケイト」からふくらませた物語でもあり、比較することで違う面白味を発見した。その意味を再確認できた作品だった。
❀日常生活が物語の基盤であり、領主の娘が日常生活の営みの中で戦っていることが新鮮だった。
❀育ちの違うケイトとキャサリンだが、100%善と美でない主人公が活躍するところが興味深い。
❀スコットランドとイングランドの歴史的背景を自分自身がしっかりわかっていないので、理解しづらいところもあったが、魔女と人間世界がオーヴァーラップしているところに惹きつけられた。
❀「国王軍と議会との戦い」と「魔女と人間の戦い」そのふたつが平行している。
❀白い少女と黒い少女との表現が印象に残るが、これには人種差別的な側面もあるのだろうか?
❀要所要所にある詩に惹かれた。
❀実際に起こった歴史が、この作品にリアリティを与えている。
❀ケイトの母が悪い魔女であることが最初受け入れられなかった。
❀排外主義、ポピュリズム、魔女狩りといった西洋の迫害の歴史を告発したものではないのか。それはひいては、魔女はいなかったということではないのか。
❀羊の頭がキャサリンの頭にのっているようでいて実は何もないというところは暗示的で、だからこそリアリティを感じた。
❀現実のことなのに、不思議な世界でもある。不思議さに取り囲まれた感覚があった。
❀キャサリンはキリスト教的善、ケイトは太古からのエネルギー、魔女と魔王は卑小化されたジプシー的な力といった象徴的なものを感じた。
❀ケイトの母親は魔女でもあるが、同時にケイトを守りたいという抗いがたい母性も持っている。そのいびつな愛情とキャサリンとの間で葛藤するケイトの姿が印象的だが、善に向かって立ち向かうケイトの姿が力強い。
❀前半と後半では場所を変え、魔の力も変化する。最終的に魔の世界から救う力になったのは、やはりあちら側の住人の手助けによるということも興味深い。
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