REPORT
連続講座 スライドで楽しむ物語の世界

  

2013年 第1回 『秘密の花園』
  フランシス・ホジスン・バーネット著/山内玲子訳/岩波少年文庫
                    猪熊葉子訳/福音館書文庫

「読書会」報告 
(2013年5月22日)

   

 第一回目、『秘密の花園』の読書会が参加者28名で開かれました。
大人になり、親となった今、改めて読んだ『秘密の花園』には、子どもの頃のドキドキ感だけではなく、バーネットが信捧したという「クリスチャン・サイエンス」思想(精神の健康が肉体の健康をもたらすと考える)が、描かれていることが感じられます。
 主人公のメリーと、いとこのコリンは、親から愛されなかったために、ひねくれ、わがままに育ってしまいます。それが、マーサのお母さんや、ディッコンに出会い、自然に親しみ、花園を再生させることで自分たちも成長し、生きる力や喜びを得ていったのです。
どこまでも続くムーア、そこに生きる動物たち、春を迎え咲き誇る花々〜。『秘密の花園』の再生を通して、子どもが本来持っている生きる力を引き出してくれたのは、この自然の持つ大きな力と、温かく見守り、時には手をさしのべてくれた周りの大人たちの大きな愛情でした。             
                          
※画像はシングスハースト・カッスル・ガーデンです。

 ☆参加者の感想を紹介いたします。

 

・バラの季節に読めてよかった。塀に囲まれた庭や菜園、広大なムーアとはどんなものか。スライドが楽しみ。
・とても読みやすく、すぐにお話の中に入れた。古さを感じない。
・メリーもコリンも普通の子どもなのに、育ち方がゆがんでいたため、ひねくれてしまった。親によって、子どもがそうなってしまう。設定が今と共通しているところがある。
・春が来るようすの表現が、すばらしいと思う。
・メリーもコリンもしだいに「なまり」を話すようになる。その土地の持つ「言葉の力」と結びついておもしろかった。
・訳により、受ける印象が違うと思うので、比べてみたい。
・マーサ、マーサの母、ディッコン、庭師のベン〜昔は周りの親以外の人が、すごくかかわって育ててくれた思い出がある。今の子育ての難しさを感じる。
・親の立場で読むと、心に響くものがあった。子どもの持っている力を感じた。今では考えられないほど空間と時間がたっぷりあったと感じた。
・お母さんになった気分で読んだ。子どもに信頼され、秘密を打ち明けてもらえるような大人。子どものそばにこんな大人が一人でもいたらいいと思う。
・マーサのお母さんはすばらしい。こんな子育てができればよかった。
・子どもの頃読んだとき、最後に父親に会うところがあまり印象に残らなかった。大人になって読んで、息子を避けていた父親が、息子を心から受け入れられるようになるまでの、心の変化がすごく感じられた。    (岩出)




2013年 第1回 『秘密の花園』
  フランシス・ホジスン・バーネット著/山内玲子訳/岩波少年文庫
                    猪熊葉子訳/福音館書文庫


◎「スライドの会」報告 (2013年5月30日)

 昨年度に引き続きの池田正孝先生のスライドの会、心待ちにしていた今年度第一回は、バーネットの代表作『秘密の花園』です。
読書会でも、まさにバラの季節にこの作品と出会えた幸せについて口々に語られましたが、スライドでは、その素晴らしい花園を実際に目にすることができるとの期待が、ますます高まりました。
先生から、詳しい作品と作者の解説をいただいた後、いよいよスライドの上映です。
スクリーン上の画像は、まず、バーネットの生まれたイギリス・マンチェスターから始まって、10代に移り住んだアメリカへと進み、バーネットの生涯の足跡を追います。 
そして、いよいよ花園のスライドへ…。
イングリッシュ・ガーデンで名高いイギリスだけに、有名な美しい庭園は数えきれず存在するのですが、今回の“秘密の花園”は、それが、多くのイギリスの児童文学のように物語の舞台の地に現存するというわけではないとのこと。移住先のアメリカで作家人生をスタートさせたバーネットは、後に、イギリス・ケント州の「Greate Maytham Hall(グレイトメイサムホール)」を購入し、そこで9年間ほど過ごしているのですが、その中の壁で囲われた庭園、walled garden(ウォルドガーデン)こそが、「秘密の花園」のインスピレーションを与えてくれた庭であったというのです。実際、バーネットは、その庭を再生させ、見事な花園となった庭園で多くの作品を創作したということです。
スライドに写された「グレイトメイサムホール」―当時のものが火事で焼けたために立て直され、現在では高級アパートとして人が住んでおり、入るには許可のいる建物になっているそうです。それでも、庭園の門には「THE SECRET GARDEN」の看板があって、まるで物語の世界へと誘ってくれるようです。
 先生の最初の訪問は4月で、まだバラは花ではなく、緑の葉を茂らせているところでしたが、まさにメアリーやディコンやコリンと同様、“育ちゆくもの”の生命力のようなものに満ちたその庭に魅せられ、先生は花の季節の再訪を決心されたということです。
 そして、7月。見事なバラの花園となったバーネットの庭との再会です。日本では、虫や病気にやられやすく、手間のかかる印象の強いバラですが、イギリスでは、虫も食わず、病気にもならないのだそうです。まさに、イギリスの土地と気候が育んだ花なのでしょう。
 その後も、スライドは、「シングスハースト・カッスル・ガーデン」「チャートウェル」「ヒーヴァー・カッスル&ガーデンズ」、そして、「秘密の花園」の舞台となったノース・ヨークシャー・ムーアの広がる中にある「カッスル・ハワード」と、それぞれの美しさをたたえた庭園を見せてくれました。また、先生が何度目かの挑戦でようやくフィルムに収められた“ヒースのムーア”は、バラの花園と共に、物語の世界をより納得のいくものにしてくれたのでした。
最後に、先生がスライド上映の前にお話してくださった言葉を是非ともお伝えしたいと思います。
―『秘密の花園』は、読む者に「生きがいは、自然や他者との豊かな関係性から生まれる」ということを実感させてくれます。それこそまさに、3.11の震災後の日本へのメッセージではないでしょうか―
今こそ、子ども達だけではなく、私たち大人も改めて『秘密の花園』の世界をじっくり味わってみたいものです。バラの花の豊かな香りの中に、生命の力強い躍動を感じながら。 (箭内)


                      
※画像は、ヨークシャーのヒースです。
  
  

   

         
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