REPORT
連続講座 スライドで楽しむ物語の世界


第1回 『第九軍団のワシ』(ローズマリ・サトクリフ著・岩波書店)

◎「読書会」報告  (2012年4月25日)

 第1回はイギリスの歴史小説『第九軍団のワシ』を取り上げました。これはローズマリ・サトクリフのローマン・ブリテン時代を扱った三部作のひとつで、ローマ帝国の支配下にあった130年頃のブリテン島が舞台です。
 ローマ軍団の若き百人隊長マーカスは戦いで負傷し、輝かしい未来を閉ざされます。失意のマーカスは自ら生きるために、そして行方不明となった父の第九軍団の真相を解明し、その象徴である<ワシ>を求めて、かつて奴隷であったエスカとともに北の辺境へと向かいます。未知の部族との出会い、軍団の謎、闇の洞窟、逃亡・・・・・・。次々にサスペンスに富んだ事件が展開されていきます。
 読書会の参加メンバーも、一気に物語の世界に引き込まれ、最後までハラハラしながら楽しんだという意見が多数を占めました。読書会での感想を紹介します。

・ 「失われた誇りは、いかにして回復されるか」この目的に向かって艱難に立ち向かうマーカスやエスカの姿に圧倒される。
・ 史実に裏付けられたリアリティのある描写で、当時の生活や風俗が目に見えるように書かれていて興味深かった。
・ 登場人物がみな個性的で魅力的である。冒険を通してそれぞれが成長していく様子が感動的。
・ 異文化がぶつかり合い、融合しながら歴史が作られていく形成過程がよくわかる。
・ ブリテン島の風景描写が美しい。是非行ってみたい。
・ 格調の高い文章が素晴らしい。
・人間のちっぽけではあるが果てしない努力が、生きる誇りと、人間同士の固い絆をつくるのだという作者の信念が感じられて、読後感が清々しい。
・ 重厚な冒険歴史小説で、サトクリフのストーリーテラーの面目躍如とした作品。


初めての試みとあって、最初は読書会の雰囲気も堅かったのですが、次第に色々な角度からの感想が続出して、盛り上がった読書会となりました。池田先生のスライドで更に物語の世界が深まることを期待します。(徳江)

※写真は池田先生のスライドの会で使用されたものではありませんが、ハドリアヌスの北壁の一部です。

残念ながら、池田先生のスライドの会に参加出来なかった方へ・・・
・「本作り空」のサイト内にある「おきくの児童文学の旅」の中で、
ハウステッズ砦が紹介されていますよ!

本作り空「おきくの児童文学の旅」

  
  



第1回 『第九軍団のワシ』(ローズマリ・サトクリフ著・岩波書店)

◎「スライドの会」報告 (2012年5月17日)

 「スライドの会」は、講師に中央大学名誉教授・池田正孝先生をお迎えし、中央図書館で行われました。 使用されるスライドは、先生が実際に物語の舞台となっている現地を訪ねお撮りになった写真を使用しています。 岩波少年文庫「第九軍団のワシ」の表紙カバーになっているお写真も先生の作品から使用されたものです。

 いよいよ部屋が暗くなりドキドキ・ワクワクしながら見た1枚目のスライド写真は、本のタイトルにもなっている「第九軍団のワシ」の旗印と信じられていた ≪ワシ≫ でした。(サトクリフが生きていた頃まではそう思われていました。)

 それは黒く一見するとカラスのようで、物語で主人公のマーカスが初めて目にした時と同じ様に羽のとれたものでした。 レディング博物館に実際に展示されているもので、サトクリフは本文の中で ≪ワシ≫ の残骸と表現していますが、それは黒光りし羽がないからこそ いろいろな戦いをかいくぐってきたであろう事を想像させました。
 池田先生曰く、「サトクリフも取材できっと目にしたに違いない」と! この講演会の中で何度となく耳にしたフレーズで、先生の思いを感じます。

 どんどんスライドが進められていき 剣闘士エスカと百人隊長マーカスが出会ったとされるカレバのローマ風円形闘技場跡やカレバの城壁。そしてローマ軍が進軍する為に作られた「真っ直ぐな道」が、雑草におおわれて人知れずひっそりとそこにある写真は、かつてローマ軍がそこにいてブリトン人と戦った事実も見せてくれました。
 ≪ワシ≫を盗んで隠した場所のモデルとされるオウ湖。マーカスが物語の最後で元老院から贈られた農場のモデルとされる陽当たりの良い丘陵地は、サトクリフの住まいから近い場所にあり、マーカスのアクイラ一族の家紋として使われたイルカのモザイクもそこに存在している写真も見る事ができました。
 
「サトクリフが物語を作りあげる上で 特定の舞台・場所・背景を詳しく取材したことが明らかで、そこにストーリーを展開させていくからこそ、物語の世界が目に見えるように描かれているのです。」と 池田先生に教えていただきました。またそこがイギリス児童文学の共通点であり、先生の大変興味ある大好きなところだと熱く語って頂き、本当にそう思いました。
次回もまた楽しみです。(高橋亜)



残念ながら、池田先生のスライドの会に参加出来なかった方へ・・・
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